ルナさん③
ルナさん15歳、オス。
9月28日の夜に迷子になり、
10月1日に保護された。
10月7日、ウチの子だとわかり、知らせをもらった。
それが夜勤明けの朝だったのだが、迎えに行くことにした。
飼い主確認の電話で、気になることを言われた。
お腹の横に怪我していますが、
前からですか?
いや、どこにも怪我なんてしていない。
目も耳も悪いから、どこかに引っ掛けたんだろうか。
動物指導センターは、自宅から車で二時間。
遠く感じた。
キョウさんと2人、
大雨の天気予報なのに雨が降らないね、とか
死んでると思ってたから奇跡が起きたね、とか
私の顔を見たら怒るだろうか、怒らないよ、喜んでくれるよとか
同じ話ばかりしていた。
動揺している。
いなくなったのも信じられなかったが
見つかったのも信じられなかった。
指導センターは、ちょっと山道を登った先にあった。
こんなところ?
と思ったら、
ペット霊園の文字が出てきた。
うわー、なんか嫌ね。。
その先に、動物指導センターがあった。
車を降りると、犬の鳴き声がたくさん聞こえた。これだから山の上にあるのか。
事務所に行くと、職員が5、6人、静かに仕事をしている。声をかけると、我々のことをみんな待っていたようだった。
小さな声で指示された若い男性が、
オペ室にいるそうです
と返事をした。
処置の最中なのか?
案内されると、処置台のある小さな部屋に、
沢山の犬猫がケージに入っていた。
でもみんな、静かだった。
みんな怪我や病気の子たちなのだ。
私たちを見ると、自分の飼い主じゃないのかと残念そうにしているようだった。
ルナさんは、処置台の足元に寝かされていた。
ぐったり寝たまま動かない。
声をかけ、頭を撫でてもぼんやりしている。
めやにが黄緑色に、目を塞いでいる。
抵抗力が落ちて、朝拭き取ってもすぐ出てくるそうだ。
キョウさんも声をかけて、体を撫でていた。
左の脇腹の毛が剃られていて、小さな穴から赤い膿が少し垂れていた。
膿瘤= のうりゅう といって、
傷が化膿して、皮膚の下でうみの袋ができてしまったらしい。
傷の中を生理食塩水で洗い流す処置をしてくれていた。
固形物は食べてくれなかったそうで、
毎日食べられるだけの流動食を食べさせてくれていたそうだ。
1週間世話になっていたのだが、
引き取りは一律5000円。安いと思う。
申し訳ない。ありがたい。
すぐに病院へ、と言われたが、水曜日は獣医が休みだ。明日行くことにした。
帰りの車で、キョウさんがルナさんの隣に座り、ずっと撫でていた。
ルナさんはキョウさんの手にあごを乗せてため息をついた。
信号で止まると、早く進めと言わんばかりに声を出したりした。
夜勤明けの私もだんだん疲れてきて、急に眠くなったものだから、
途中コンビニに寄った。
ルナさんは何度もぼやくように声を出していたが、許せよ。事故るわけにもいかん。
家に着いた。
毛布のハンモックで家の中まで運ぶと、
急に水をたくさん飲んだ。
そしてすぐに、一気に吐いてしまった。
それからは自分から飲んでくれなくなって
キョウさんは困っていたのだが、
ルナさんは少し眠った。
夜11時頃に遠吠えのような大声をあげた。
私がルナさんのところへ行くと、
キョウさんはルナさんの方を見ながら眠っていた。
もらった針のない注射器で犬歯の後ろから水を注ぐと、
舌を動かして飲んだ。
牛乳をあげてみたら、これも飲んだ。
この日はこれ以上食べずに寝てしまった。